12月30日、土曜日。
日付は変わったが、これから寝るので昨日の続きのように感じられる。MK氏は24時間営業の牛丼屋とコンビニエンスストアでつまみを買っていた。私も非常食用におにぎりを買っておく。
仙台駅に戻って、「ひたちふるさと」の乗客のために営業していたと思われる、キヨスクで缶ビールを買う。福島で飲んだにもかかわらず、MK氏はロング缶を買っていた。
「ビールは底なし」と言っていたが、トイレのほうは大丈夫なのだろうか。改札口を通るのと、列車が到着したのは同時だった。14分停車するので別に慌てる必要はない。
仙台に停車中の臨時急行「ひたちふるさと」
「北斗星」カラーのEF81型電気機関車と急行「八甲田」「津軽」と同じ14系客車が六両という編成。快速「ラビット」から尾久の客車区に停車しているのを見た。土浦始発のメリットはなんだろう。
いろんなことが頭を駆け巡ったが、そんなことより早く寝なくてはの気持ち(?)が先だったので、さっさと車内に乗り込む。
「急行券だけの客を乗せていた」
MK氏が言っていた。あまりにも乗客が少ないので、どこに座ってもいいようだ。六号車はがらがらだったので、MK氏と通路をはさむ形で一ボックス占領する。
全席指定であるのなら、禁煙車を設定してもいいはずなのに全然ない。乗客が少ないので救われたが、満席だったら地獄である。一応、切符に指定された座席を見てみた。一番後ろの一号車で、後ろの車両に行くほど、乗客がまとまって座っていた。指定された座席は、ガラの悪いおっさんがあぐらをかいて座っていて、まずそうな顔をしながら弁当を食べていた。寝袋で寝ている乗客もいた。始発の土浦から乗っている人達は、他の車両がガラガラだなんて、想像も出来ないのではないだろうか。
さて、缶ビールで乾杯しようとMK氏を見ると、バッグから小さい缶ビールを取り出していた。缶ビールが買えなかった時の非常用らしい。準備のよさに感心してしまう。
外はいつの間にか雪が降っている。
0時42分、急行「ひたちふるさと」は静かに仙台を発車した。同時に缶ビールの栓を開ける。
「いやぁ、旅先で何が起こるか分からないものだなあ。まさか、シャワーまで浴びれるなんて…。だから旅はやめられない」
MK氏は出会ったときから「だから旅はやめられない」を連発していた。旅の魅力、ここにあり。
上野をめざす夜行列車と離合する。
そういえば、仙台では上りの急行「八甲田」が雪のために遅れると案内していた。ダイヤが乱れているせいか、臨時列車がたくさん走っているためかわからないが、上り列車と立て続けに離合していった。トレインマークが読めても、臨時列車か、定期か、何号まではわからない。
MK氏は「底なし」を証明するかのように非常用とロング缶を空けてしまった。私もレギュラー缶を空にして眠ってしまう。
雪も少しずつ深くなっていった。
MK氏に起こされる。
車窓は一面の銀世界。列車は野辺地に停車していた。
さらに雪がしんしんと降っている。
あわててセーターを着て、顔を洗いに行く。水の冷たさと全身を冷たい空気が包んでいるのですぐに目が覚めてしまった。
まだ闇の中の終着駅に定刻の到着。6時でもまだ暗い。
青森に到着した「ひたちふるさと」
次の列車まで24分間の小休止。ここからの乗り継ぎは北海道帰りのパターンと全く同じである。
奥羽本線弘前行客車列車(青森駅)
北海道に渡るMK氏に見送られて青森を発車。津軽新城あたりで東の空が赤く染まり始めた。
東の空が少し明るくなってきた。
空からは雪が結構降っているが、列車はおかまいなしに走っている。遠慮えしゃくなく疾走するので頼もしい。雪国を走る列車はたくましい。雪煙をまきあげながら走る姿は見ごたえがある。空がどんよりしていて右手の岩木山は全く見えなかった。各駅に停車しながら乗客を拾い続けて弘前に到着。
JRの直営店「アッキー」で朝食。モーニングセットが360円といううれしいお値段。駅のイメージもだいぶ明るいものになってきた。それはとてもいいことだが駅そのものの個性がなくなり、どの駅にいるのか分からなくなるような改装は困る。今の所試行錯誤の段階でやむをえないかもしれないが、それぞれの駅に個性を持たせて、単なる通過点ではなく、よそからも人を集めることのできる場所になってほしい。「アッキー」は待合室を改造したためか、トイレがなかった。壁にはJRの職員が描いたと思われる油絵が数点。雪の弘前駅構内の風景や、岩木山などがあって楽しめる。
前回の乗り継ぎではキヨスクでパンと牛乳を買って、ホームでパクついていたので、「アッキー」の利用は今回が初めてである。次の列車までの待ち時間は38分。急行「はまなす」から乗りついで来た人達はここで朝食を…というために設けてくれたのではないかと思うくらいだった。
大館行は五能線の鯵ヶ沢からのディーゼルカー。弘前で切り離されて、一両だけが大館行になる。ホームの乗客は果たして乗れるのだろうか。この列車はいつも立ち客が出るほどの乗車率。今回も混んでいた。
車窓からは雪景色が楽しめる。車内の暖房で窓が曇ってきたので、指先で拭いていると、
「こうすればきれいになるだろ」
向かいの座席に座っている風変わりな服装の男性が自分の服の袖で窓を拭いていた。西郷隆盛の肖像画で軍服を着ているのがあるが、その肖像画の人相が変わってこの列車の中にいるといった感じである。缶ビールを飲んでいて顔が少し赤い。他の乗客にも、
「ここが空いているから座ったら」
とからんでいる様子。ただの酔っ払いかと思ったら、
「これは戦闘服や」
「大館の○○の所に詫びに行かないかん」
網棚を指差して、
「アノ中にはワッパが入っておる」
などと、物騒なことを言っていた。
隣の座席は空いたままだった。誰も座らない。
「旅行しとるのか」
「学生?」
などと聞かれたので一応きちんと応えておく。このおじさん一人のおかげで車内は緊張した雰囲気に包まれていた。大館までの辛抱だ。
雪はさっきから降ったり、やんだりしている。
緊張した雰囲気のまま、列車は大館に到着。