撮影会その1−朝市

 バスに乗り込んで新潟駅を出発。なんとバスガイドさんが乗っていた。2号車のバスガイドさんは越後美人で、可愛らしい顔立ちだった。車内は全国各地から集まった高校生と顧問の先生なので初対面である。会話は少なく修学旅行のような打ち解けた雰囲気は全くない。この一種独特の雰囲気に押されてか、ガイドさんも何を話せばいいのか戸惑っているようだった。

 豊栄に到着。予定では福島潟で船に分乗して風景の撮影を行うはずだったが、3日の大雨でほとんど水没してしまい、船に乗ることが出来なくなってしまった。そこで、朝市を撮影することになった。

 豊栄の朝市は月に6回行われる六斎市で、衣類から食料品、日本海の海の幸などいろんなものが売られている。

 講師のアドバイスではテントが張ってあって暗いので、露出に気をつけることと、ローアングルで撮影してみよう、ときわめて簡単だった。

 そこで買い物客に混じってひたすら低い位置から撮影。

「どこから来たの?」

「三重からです」

「三重県!いい所だよねぇ。三重県バンザーイ!」

「えっ、九州から来たの?」

 店の人達はとてもきさくで、いろいろと話しかけられた。

「なんでこんなにカメラ持っている人が多いの?」

 なるほど、買い物に来た人よりもカメラを下げている人の方が多い。今まで撮影会はあったそうだが、こんなに大勢来たのは初めてだと店の人が教えてくれた。

 子供がヨチヨチ。

 パシャパシャ。

 店の人と客が商品の受け渡しや代金のやりとりをしていると、

 パシャパシャ。

 朝市の利用者はたくさんの珍客に戸惑っていた。高校生カメラマンに混じって顧問の先生方もシャッターを切っていた。

 利用者には当たり前の光景も珍しい被写体だ。それぞれ真剣に撮影していた。NHKテレビがその様子をしっかり撮影していた。

撮影会その2−福島潟

 バスで移動して福島潟へ。到着後予約した弁当をもらって食事する予定だったようだが、手配の不手際か弁当がまだ届いていないらしい。そこで撮影会を先にした。大きな盛り土に登り、沼を見る。大雨でかなり水没したらしいが、初めて見る景色なのでどの程度の被害なのかわからない。

 近くで道路工事が行われていた。幅の広い道路を通すようだ。開発か、自然保護か。さらに工事の方法でもめていると地元のカメラマンが教えてくれた。

 バスに戻って車内で昼食。NHKニュースがあり早速、朝市の撮影会の様子が紹介されていた。

「あっ!オレが出てる!」

 車内でテレビを見ていた高校生が思わず声を上げた。

 次に選抜高校野球のニュース。何故か福岡県代表の柳川高校が出ていた。相手は六日町高校。そうか、新潟県とあたるのか。

撮影会その3−豪農の館

 ガイドさんの説明で、自分の所有する土地だけで新潟まで行けた、敷地面積がとてつもなく広い…とにかく豪農だということが分かった。他にも三角形の部屋、ひし形の畳など、変わったものもあるらしい。昔ながらの建築物を見るのは好きなので期待しつつ、車窓を眺める。

 あたり一面水面が広がっていた。

3日の大雨でたんぼが水没してしまいました」

 …水田だったらしい。

 阿賀野川沿いにさかのぼった所に大きな看板。バス専用駐車場に到着。大きな観光名所であることを十分証明できるほどの広さだった。

 一行はぞろぞろと入り口へ。敷地を取り囲むように木が繁っている。立派な塀に囲まれている。

 こんなに広いのか!の驚きに答えるかのように

「こちらはお寺の敷地です」

 とガイドさんの声。

 入り口に「歓迎写真部門」の看板があった。バス5〜6台の乗客を収容できるほどだから、広いことに変わりはない。早速、撮影会が始まった。大勢がカメラを持って屋敷をウロウロしているから、静かなたたずまいを撮るのは無理。開き直って、わざと人物を入れて撮影。

 大きな機材を持ったカメラマンが、撮影会の記録写真を撮っていた。

「三脚、貸してあげようか?」

 女子生徒二人のうちの一人が、カメラマンから三脚を借りていた。若い女性助手がカメラマンにレンズやフィルムを渡したりと忙しく動いている。

 もう一人が手持ち無沙汰なので、三脚を貸してあげた。

「どちらからですか?」

「熊本の八代からです」

 私が福岡から来たと言うと、

「筑紫D高校のS川先生、来てますか?」

 多分、会った事があるのだろうが、名前までは知らない。生徒の様子を見ていると、ものすごく会いたそうだった。S川先生はそんなに有名なのか?

 八代のS学園女子高校は写真甲子園の九州代表校だった。筑紫D高校も写真甲子園に出場していた。このことを後で知った。

「こういう所では、どんなものを撮ったらいいのでしょうか」

 うっ、質問されてしまった。

「うーん、見ていておもしろいものを撮ればいいんじゃない?例えば、湯呑みの形をしたつくばい、とか」

「なるほど」

 女子生徒は素直に目の前にあるつくばいを撮影していた。

「あっ、湯呑みの形をしているとは気がつかなかった」

 私も撮影。撮影は楽しんでやらなイカン!と偉そうなことを言ってしまった。

 のどが渇いたのでちょっと休憩。隣に腰掛けている顧問の先生に話しかける。

「どちらからですか?」

「福島の郡山からです」

 東北なまりの返事がかえってきた。

「列車だと近いんだけんども、あの大雨で磐越西線が不通になってしまって、いつもなら簡単にこれるけんども、車で来ただ」

 え?

 磐越西線が不通?

 今後の旅の目的地である喜多方に行けるだろうか。

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